「ユイトと双子の探偵生活 File 002 永遠のアイドル」サンプル - 2/2

「改めまして、星川アオイと申します」
「マネージャーの利岡敬です」
本物だ。一瞬、そっくりなだけの他人かとも考えはしたのだが。なんというか、一般人とはオーラが違う。
星川アオイ。十八歳、女性。現役アイドル。ユニットなどは特に組むこともなくソロで活動。ココロ・プロダクション所属。歌手としての活動だけにとどまらず、映画やドラマ、バラエティなどでも活躍している。……だったか。
最近の若者には疎いが、唯斗が大ファンだったから少しはわかる。
そういえば先日放送されていた刑事もののドラマにも出演していたが、イルとイリも食い入るように見ていたか。
「ええと、名刺は……今は切らしていて」
利岡さんから渡された名刺を受け取ったはいいが差し出すものがない。作っておけば良かったか。身一つでここに来たため、そういうものは持っていないのだった。
「構いません。存じ上げていますし。でもまさか、あなたがいらっしゃるとは思ってもみませんでした。……あの、そちらは?」
星川アオイ――いや、アオイさんは俺の後ろに立っているイルとイリが気になるようだ。それはそうだろう。なにせ二人は先ほどからずっと、アオイさんのことを本物かどうか品定めするかのようにじろじろと見つめているのだから。
「御蔵イル。こっちは可愛い可愛い妹のイリだ」
「まあなんていうか、ユイトの雇い主ってところかしら」
「ユイト……? 雇い主……?」
「き、気にしないでください。なんていうか……あだ名だとか、ごっこ遊びの名残みたいなもんです。好きに呼んでください。それよりあの、依頼とは?」
そう誤魔化して、なんとか事なきを得た。
そういうことを言うと変に思われるだろ、と口パクで抗議するがイルとイリは無視を決め込んでいるようでこちらを見ようとすらしない。
……はあ。これは長期戦になりそうだ。いや、俺には戦うつもりは毛頭ないが。
「私から説明します。実は今朝、事務所に非通知で電話がかかって来たんです。『星川アオイは今後人前で歌うな、さもなくば大変なことが起こる』と」
利岡さんはそこまで言うとごそごそと懐を探る。
「それと、こちらの写真が郵便受けにアオイ宛で投げ込まれていました」
利岡が差し出したのは二枚の写真。イルとイリは飛びつくように覗き込む。
「こら、失礼だろ」
二人を引き剥がすようにして写真を受け取る。一枚目の写真には、デジタル時計のようなものがついた機械。何本かのコードが複雑に絡まっている。
いや、これは考えるまでもなくあれにしか見えない。
「時限爆弾……ですか」
「そう、見えますよね」
あまりにもベタな外観のそれは百人に見せたら百人が時限爆弾と答えるだろう。
「うっわこんなもん初めて見た」
「本物かしら、本物よね」
イルとイリは興奮している様子だ。いや、本物だとしたら洒落にならないのだが。
「二枚目は……ホールの外観か? この建物は……」
「縦浜アリーナじゃないか、これ」
イルが、今度は俺の背後から写真を覗き込んでいた。
「そのようです。縦浜アリーナでは今日、弊社主催のライブがあるんです」
「今日、ですか? また随分と急ですがなるほど。事前連絡もなく早朝に訪ねてきたわけがわかりました」
「ええ、失礼かとは思ったのですが……」
アオイさんは申し訳なさそうに俯く。
「いや、構いませんよ。だが、何故うちを選んだんです? もっと実績のある探偵なんてごまんといるでしょうに」
「ああ、それはライブ会場に近かったので。ほら、縦アリはここからひと駅ほど行ったところでしょう。急いでいたのでそういうことは後回しでした」
利岡が北の方角を指差す。
「なるほど。ですが、警察に通報とかは考えなかったんですか?」
「警察は呼ぶなと言われました。それに、そんなことをしたらライブが中止になります。ファンの皆が折角楽しみに来てくれているのに中止なんて、そんなこと出来るはずありません!」
「それに言ってしまえば弊社――ココプロの損失も多大なものになるでしょう」
「待て、もしものことがあったらそれどころじゃないだろう!」
爆弾が本物ならば、これは人の命がかかっている問題だ。近いからうちを選んだだとか、事務所の利益がどうだとかそういう話ではない。
「……もしものことなんて、ありません。絶対にありませんから」
アオイさんは普段の、アイドル・星川アオイを知る者が聞いたら驚くであろうほどの低い声で呟いた。
「アオイ……さん?」
イルとイリが驚いたような表情でアオイさんを見る。するとアオイさんははっと我に返ったようになり、慌てて笑顔を作る。
「な、なんて、あはは。ファンの方に手出しなんてさせませんよ!」
そう言ってアオイさんは戦隊ものの決めポーズのようなポーズを取ってみせる。
……アオイさんの態度にはなにか違和感がある。だが、今はそんなことを言っている場合ではない。時刻は午前八時を回っている。
「爆発する時刻なんてのは……わからないですよね」
「え、ええ……」
「ライブが始まってからでしょう? 人がいないところを爆破しても仕方ないわ」
「そうだよな、流石はイリだ! 一番盛り上がってるところでドカーンだろ」
ココプロではなくわざわざアオイさん個人を狙って爆破予告などするくらいなのだからアオイさん個人への恨みだろう。
イルとイリの言い方は少々どうかと思うが、仮に誰もいないところで爆発したとして、建物だけでも大損害という規模ではある。ライブも中止にはなるだろう。だが、それならばアオイさん個人ではなく縦浜アリーナやココプロの損害になるだけだ。
と、なると二人の言う通り、人がいる時間帯を狙って来るだろう。
「アオイさんに人前で歌うなと言っているからにはアオイさんの出番が終わってからの可能性が非常に高い。出演時刻や順番が発表されていないならばタイマーは飾りのようなもので遠隔操作が出来るなんて可能性もあるな。利岡さん、ライブの開始時刻とアオイさんの出演予定時刻を教えてもらえますか」
「ライブは十四時からです。アオイの出番は発表していませんが最後なので十六時くらいかと」
「と、なるとあまり時間はありませんね」
ライブが始まるまで今から六時間弱。俺の予想が正しかったとして、リミットまでは八時間程度。迷っている暇などない、やるしかない。
「わかりました。ですが、ひとつだけ条件があります。いざとなったときには警察を呼びますからね」
「……わかりました。どうか、よろしくお願いいたします」
アオイさんは深々と頭を下げた。利岡さんもそれを見て同じように頭を下げた。
「さてと。まずは会場に行かないことには話にならないか」
「えっ、それって……」
「他のアイドルにも会えるってことか!」
イルとイリが目を輝かせ、俺は頭を抱えた。

縦浜アリーナ、略称縦アリ。神奈山県縦浜市にある多目的ホールだ。収容人数は一万五千人ほどといったところか。
利岡さんの運転する車で会場近くまで来たところ、早くもちらほらと待ち合わせをしているらしき人の姿が目立つ。まだライブまでは時間があるが事前にグッズ販売などがあるのだろう。
「また随分と大きな会場でやるもんだな。事務所主催だろう?」
「事務所主催っつってもココプロは老舗の巨大プロダクションな上、人気アイドルも多数抱えてるしな! 星川アオイは勿論、マジトリとか氷堂ノアもココプロだし」
イルは何故か自慢気に語る。
「イル、アイドルなんて好きだったのか」
「ずっと家にいるからテレビはよく見てるんだよ。まあ一番可愛いのはイリだけど」
確かにここ一ヶ月、イルとイリは家でテレビばかり見ていた。二人は学校にも行かず、かといって特にどこかへ出かけたりもしないため、リビングでは毎日テレビが特に意味もなくフル稼働している。
「ていうかなんだ、ま……マジトリ? 氷堂ノア?」
「知らないのかよ、どっちも今すっげえ人気だぜ?」
「あらあら、流行も少しは追わないとすぐにおっさん認定されるわよ」
「放っとけ」
もうとっくにおっさんだ。
「ふふっ」
そんなことを話していると、不意にアオイさんが笑い出した。
「どうしました?」
「いえ、すみません。仲がよろしいんだなあと思いまして」
「仲良くなんてない!」
イルとイリは揃ってすぐさま否定した。なにもハモらなくてもいいだろうに。
「ふふ、ごめんなさいね。ええと、氷堂ノアさんは私と同期のアイドルです。誰に対してもツンとした塩対応なので、氷の姫って呼ばれていますね。とはいえ、そこが可愛いんですけど」
「そうそう、そこが可愛いんだよな。まあ、イリのほうがもーっと可愛いけど」
ふむ。テレビで見たことはあるのかもしれないがどうもピンとこない。顔を見ればわかるだろうか。俺が頭の上にハテナマークを浮かべているのを見て、利岡さんが苦笑いを浮かべる。
「はは、ノアはもっと派手に売り出さなくてはいけないようですね。マジトリのこともご存知ないですか? ココプロの看板アイドル『MAGIC☆TRICK』! その名の通りマジックを得意としていてパフォーマンスにも組み込んでいるんです。そうですね……藤咲リク、と言ったらわかりますかね」
「ああ、藤咲リクは知ってます。永遠の子役、いや、今は永遠のアイドル・藤咲リクでしたよね」
藤咲リク。流石の俺でも知っている名前だ。成長・老化が普通の人間より少し遅いという類い稀なるギフト能力を持ち、かつては永遠の子役と呼ばれていた。
その後、成長とともにアイドルに転身。今では俺と同じ四十一という年齢になったのだが、どう見ても二十歳ほどにしか見えない。
「そうです。さあ、着きましたよ」
関係者入り口前に車を停めると、利岡さんはさっと後部座席のドアを開けてくれた。
「ああ、すみません。いや、ありがとうございます」
こういうときは謝るのではなくて礼を言うんだった。イルとイリに教えられた。
利岡さんが車を停めに行くと、アオイさんはくるりとこちらへ向き直る。
「さて、ここからは関係者以外立ち入り禁止です。お三方は見学に来た私の親戚の、そうですね、叔父様とそのお子さん、ということにでもしておいてください。お名前もえっと、ユイトさんでしたっけ、そのほうが良さそうですね。あなたのことは、わかる人にはわかりますから。騒ぎになっては面倒でしょう?」
「えー、ユイトの息子かよ」
「こんな、もさっとした親を持ったつもりはないのだけれど」
「こら。誰がもさっとしてるんだ。黙ってそういうことにしておけ」
まあ、外見についてはあまり否定は出来ないが。
……もう少し外見にも気を使うべきだろうか。
清潔にしてはいるが、間に合わせに買った、片手で余裕で足りるほどの服をヘビロテで着回しているような状態ではある。慌てて家を出たので髭も剃っていない。
そうだな……探偵としての信用問題にも関わるし、今回の報酬が入ったらきちんとした服をいくつか買うとしよう。
「はいはい」
「はーい」
「はいは一回! 伸ばさない!」
「はーーーーーーーーいはい!」
……いやコントか。
そんな俺たちの様子を見て、アオイさんはずっとクスクスと笑っている。
「すみません、反抗期みたいで」
「ふふっ、いいんじゃないかしら、元気で」
と、そのとき。
パシャッという音とともに、薄暗い駐車場が眩しい光に包まれた。
――カメラのフラッシュか?
「はいはーい、アオイちゃんお元気? ていうかそちらの男性はどなたかしら? 恋人? それにしては随分年上みたいだけど」
「……雛倉さん」
関係者入口の前でカメラを構えていたのは、オレンジ色のボブヘアーに赤いセルフレームの眼鏡をかけた、やたらと身長とテンションの高い女性だった。
パンツスーツという出で立ちや構えたカメラと胸ポケットから覗く手帳、そして言動などから察するに、記者かなにかだろうか。
「やっだアオイちゃんってば、シンリさんでいいっていつも言ってるでしょ? 私とアオイちゃんの仲じゃなーい!」
「雛倉さん。今日は関係者以外立ち入り禁止ですよ」
「いやだから関係者なの。ほら、パスだって持ってるわ。今日は藤咲リクの一日密着取材があるのよ。リクくんの一日に密着ってね! で、こちらはどなた? 年上の恋人もいいけどお姉さん的には流石に子持ちはおすすめしないかなー」
いやいやいや。どこをどう見たらそうなるんだ。
「……あーえっと、そうじゃなくて、アオイさんの叔父です。こっちの二人はアオイさんとは従兄弟で、こいつらがライブの裏側を見たいって言ったら、社会見学にってアオイさんが快諾してくれて」
俺がそう言うと、雛倉さんと呼ばれた女性はあからさまにがっかりしてみせた。
「あー、なんだ外れかあ……。アオイちゃんについに恋人がと思ったのにぃ……」
「どう考えてもそんなはずないでしょう! それに、目的がリクさんの取材なら私を撮っても仕方ないじゃない」
肩を落とす女性にアオイさんが叱責する。まあごもっともな話だ。
「そうだけど、星川アオイに恋人なんて素敵じゃない! 私は読者に最高の真実を伝えるために記者をしてるんだから。でも残念、叔父様かぁ……。あっ、私は女性ジジツの記者、雛倉真理。シンリと書いてマリよ。気軽にシンリさんって呼んでね!」
女性ジジツ……所謂女性週刊誌というやつか。女性ジジツはゴシップ記事から若手男性アイドルの特集ページまで幅広く扱っていると記憶している。
「っていうかほら、リクさん来ましたよ」
アオイさんが背後をちらりと見ると雛倉さんもそちらへ視線を移動させ、少しの間を置いてはっとした顔になった。
「あっやだ仕事仕事! じゃあ、またあとでね! リクくーん、おはよう!」
……雛倉さんは嵐のように去って行った。
「あ、あはは、騒がしくてすみません」
「いや、アオイさんが謝ることじゃないですよ」
「そうだよ、シンリさんが騒がしいのは今に始まったことじゃないだろう? おはよう、アオイちゃん」
声をかけてきた青年は先ほどから話題に上がっている藤咲リクだ。
テレビで何度も見てはいたものの、実際こう間近で見ると本当に四十一歳とは思えないほど若い。二十代、下手をすれば十代と言っても違和感がないのではないか。
ギフト能力者特有の金色の瞳が、彼の持つ不思議な魅力をさらに高めている。
栗色の髪の内側だけをオレンジに染めていて、ええと、こういう染め方をなんて呼ぶかは忘れたが最近流行っていたはずだ。服装もカットソー地のジャケットに清潔感のあるデニムと堅すぎずラフすぎず、誰が見ても好感が持てるような雰囲気である。
前髪にはカラフルなヘアピンが光っており、それによってさらに若々しく見える。
「おはようございます、リクさん」
「おや、こちらは?」
リクさんはこちらをちらりと見るとアオイさんに問う。怪訝そうな態度をちらりとも見せないあたりは流石プロのアイドルとでも言うべきか。
「こちらはえっと、見学に来た私の親戚で時……じゃなかった、ユイト叔父様と」
「御蔵イル!」
「御蔵イリです!」
イルとイリは瞳を輝かせている。こういうところは普通の中学生のようなのだが。
「イルくんにイリちゃんか。双子かな? はじめまして。知ってるかもしれないけどマジトリの藤咲リクだ。よろしくね」
リクさんはニコリと微笑みながら右手を差し出し二人と握手する。
――文句の付け所がないほどの好青年。素なのか演技なのかは知らないが演技だとしてもそれを悟らせないのだから完璧だ。これが永遠のアイドル・藤咲リクか。
「どうぞ折角ですから色々見て行ってください。仕事中はお構いは出来ませんけど」
「あ、ああ。ありがとうございます。邪魔はしないようにします」
「大丈夫ですよ。では、お先に失礼します」
リクさんは颯爽と現れ、颯爽と去って行った。
……終始、リクさんの周囲を雛倉さんが行ったり来たりしながらパシャパシャとシャッターを切り続けていたのは気にしないでおくとしよう。

「では、私はもうすぐリハーサルがあるので着替えてきますね。もしその間にどこか見て回られるようでしたら怪しまれないよう利岡さんと一緒にお願いします」
「ああ。そうさせてもらいます」
とは言ったものの、だだっ広い会場を闇雲に探すというのも骨が折れる。時間に限りがあるのだから効率的に行きたいところだ。
「そうですね……客席を見て回りたいんですが、構わないですか?」
客席とロビーは客が入ってしまえば見て回ることは不可能だ。客として見て回ることも可能ではあるが、どうしても不審な動きになってしまう。今のうちに探しておくのが得策だろう。そして、アオイさんが歌っているそのときに爆発させるつもりならば、ロビーよりも客席のほうが狙われる可能性が高い。
「ええ、構いませんよ。行きましょうか」
「あれっ、敬クンじゃん! こんなところでどしたの? アオイちんは?」
大きな声に振り向くと、そこに立っていたのは金髪の派手な大男。Tシャツに古着っぽいデニムというラフな格好だが、不思議とだらしなさは感じない。
「敬クンはやめろと言っているだろう。カイ。アオイは準備中だよ」
カイ。と、いうことは。
「マジトリの夏山カイ!」
イルが大声で叫ぶ。
夏山カイ。そうだ、顔を見て思い出した。マジトリのパフォーマンス担当。マジトリの持ち味のひとつであるマジックは彼によるものだ。
どんな仕掛けがあるのか、繊細なマジックから派手な大仕掛けまでやってのける。
「本当に大きいのね。ユイトより大きいんじゃないかしら」
確かに、俺は一八三センチはあるのだが、彼はそれよりも数センチ大きいようだ。
「カイ、また背が伸びたんじゃないのか?」
「あはは、もうオレ三十一っすよ? この歳じゃ伸びない伸びない。一八六センチでも十分すぎるくらいなのに、これ以上伸びても困るけどさ。ところでそちらはどちら様? 見ない顔だけど」
「あ、俺たちはえっと、アオイさんの親戚で、こいつらが見学に行きたいって……」
「なあ、マジトリのパフォーマンス、あれどうなってるんだ?」
イルは物怖じせずカイさんに尋ねる。いやせめて敬語を使おうな。
「ん? あー、あれね。あれはなんと……企業秘密だ!」
カイさんはそう言うと、イルとイリの頭をガシガシと大きな手で撫でる。
「ちょっ、髪が乱れるじゃない!」
「い、イリに触るな! それに教えてくれないのかよ!」
二人は軽くいなされて不服そうだ。
「おやおや? 嫌われちゃったかな。悪い悪い」
カイさんはしゃがんで二人に目線を合わせ、ニッと微笑む。
「ま、まあ、いいけど……」
「イリがそう言うなら俺もいいけどさ……」
笑顔ひとつでこの二人を懐柔とは。これがアイドルってやつなのか。
「こら、カイ。またなんか失礼なことでもやらかしたのか?」
カイさんの背後から腕がぬっと伸び、カイさんの肩を叩く。リクさんだ。
「やあ。君たち、さっきぶりだね。こんなところでどうしたんだい?」
リクさんはカイさんの肩に手を置いたままこちらへと向き直る。
「ま、マジトリだ!」
「単体でも格好いいけれど、揃うと圧巻ね……」
確かに、二人揃うとなんと言うべきか、芸能人オーラが倍増して見える。揃って街中を歩いていたらすぐにファンに、いや、ファンでなくても気づかれるだろう。
「ふふ、ありがとう。今は、見学中かな?」
「あ、ああ。彼らに会場を案内しようと思っていたところなんだ」
利岡さんが慌てて補足する。
「ふうん? に、しては妙だね。ここは客席に続く通路だ。普通ならバックステージとかを見学したいものじゃないのかい?」
す、鋭い。というかずっと気になっていたが、彼らは脅迫電話や爆弾についてはなにも知らないのだろうか。様子を見ている限りでは、知っているようには見えない。
いや、よく考えてみれば怪しまれないように利岡さんと行動しろだの、俺は探偵として少しばかり名が知れているから偽名を使えだの、なにかおかしくないか。
「……利岡さん。ちょっといいですか」
「え、あ、はい」
「すみません、利岡さんに少し聞きたいことがあるので、俺たちはこれで」
俺は、マジトリの二人にペコリと会釈すると利岡さんを半ば引きずるようにして少し先の通路へと連れて行く。リクさんが不思議そうな顔をし、カイさんが呆気に取られているようだがお構いなしだ。
「あっちょっとユイト!」
「なんだよ、折角マジトリが揃ったってのに!」
イルとイリは不満そうだったが渋々その場を離れた。

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